2023年現在、クラウドソーシングでYouTube関連のライティング案件を探すとき、もっとも目にする種類の仕事が「ゆっくり解説動画の台本制作」です。

ゆっくり解説動画とは

合成音声を利用して、特定分野の雑学や時事情報をライトに解説する動画の総称。収益構造的に再生数重視の運営になりやすく、ややマス向けの内容や切り口が多い。実況系動画のナレーションを合成音声に置き換える「ゆっくり実況」とは区別される。

一昨年ほど前に出した自著で「私はYouTube台本を書く仕事はしていないから分からん」と述べましたが、大きな潮流であるには違いないから挑戦しておこうと思い、半年と少しばかり台本を書く生活を続けました。

その経験から得た、ゆっくり台本を面白く仕上げるためのコツをここに記します。

一応「軽く数記事書いてみた」という程度の経験ではなく、運営者として実際に複数のYouTubeチャンネルを稼働させつつ、自らもライターとして数十本の台本を書くなかで得た気付きをまとめてみました。

この記事の執筆者

藤原 将

2018年からフリーランスライターとして主に法人メディアの記事制作に従事。

ランサーズ株式会社より「ランサーオブザイヤー2021」を受賞。大和出版『文章起業』など文章を題材にした著書複数。2022年からYouTube運営に注力。

注意事項等

※ときにチャンネル設計、企画考案、台本・サムネ制作、BGM選定、動画編集を自ら担当する立場から意見を述べている都合上、本記事の内容はライターの一存でコントロールできない部分が含まれます。

※自社商品の集客・販売経路としてYouTube運営をする事業体に比べ、広告売上を主な収入源とするYouTubeチャンネル(ゆっくり系含む)は外注予算が少ない傾向にあります。ライターとしてゆっくり台本の制作に挑戦される際は、その点にご留意ください。

ゆっくり台本の特徴

ゆっくり解説動画の台本(以下、ゆっくり台本)は、私が2022年以前に制作していたSEO記事や企業LP、メルマガなどとは違うフォーマットで文章を制作します。

それらとの相違点は多々ありますが、主たる特徴は「2人以上のキャラの掛け合いにより話題が進行する」という点です。淡々と解説するナレーションとは違い、片方のキャラが視聴者の感情を代弁しながらグイグイと話題を進めていくのです。

その他、運営者の性格により差はありますが、おおむね以下の要素を台本に練りこむケースが多いように思います

  • 教える側と教えられる側がいる
  • 退屈さを消す「ボケ」を各所に散らす
  • 導入部に茶番劇を入れる(入れない運営者も多い)

SEO記事の代筆では偏見を抑えた優等生的な文章を求められることが多い一方、ゆっくり台本は2人以上に喋らせる特性上片方に極論を述べさせ、片方が一般論を使いたしなめる形で打ち消すといった荒業を使いやすく、ある程度の自由度をもって原稿を書ける点が気に入っています。

一方でここまでの自由度があるからこそ、ライター側は “チャンネル運営者が視聴者に提供したい面白さ” というふんわりした基準に振り回されることになるため、たとえSEO記事やLPの執筆をそつなくこなせる筆力があっても、運営者(発注者)の評価が振るわないケースがあるようです。

では、どう面白くするのか

ここでは「少なくとも自分が『面白い』と自信を持てる台本」をゴールとします。

私自身、真面目な雰囲気の文章ばかり書いてきた人間ですので、どう視聴者の心を揺さぶれば、ゆっくり解説動画ならではの面白さを引き出せるのか悩みました。

まだ言葉に出来ない感覚的なコツを除いて、私が思う “再現しやすい面白さのツボ” を以下にまとめてみます。

  • 重要性と面白さで情報を仕分け
  • 視聴前の予想とのギャップを作る
  • 説明口調で情報を詰め込みすぎない
  • 情報を想像しやすい状態に置き換える
  • 意外性のある話題を一ヶ所に集中しない

すでに多くの台本を書いておられる方は、上記を見て「ああそんなことか」と思うかもしれませんが、私にとっては「上記を踏まえてどこをどう弄れば面白さが増すのか」の感覚を掴むまでに時間がかかりました。そんな私でも、ある程度の視聴者維持率を再現できるようになっています。

視聴者維持率とは

動画の各パートがどのくらい視聴者の関心を引いたかあらわす数値。その大きさと形から、視聴者がどこまで・どの程度の関心を持って観てくれたか確認できる。グラフの形状は以下のように解釈される。

画像:YouTubeヘルプ『視聴者維持率を左右する重要なシーンを測定する

重要性と面白さで情報を仕分け

YouTube界隈では、コンテンツ制作側の個性が比較的少ないゆっくり解説動画のような形式を「非属人系」と呼びます。そして非属人系のYouTube動画では……

「この人の声が好きだから観る」
「この人の外見が好きだから観る」
「この人の雰囲気が好きだから観る」

生身の人間が喋る動画よりも上記の動機が生じにくいため、動画内で扱う “情報” がコンテンツの主役となり、その重要性と面白さが重要になるのです。情報の重要性と面白さについて、簡単に定義します。

  • 重要性 - 知ればメリットがある情報か否か
  • 面白さ - 好奇心をくすぐられる情報か否か

前者は情報を受けとった視聴者が「仕事や学業に役立つ」と思ったり、ほかにも「披露すると賢く見える」とか「雑談のネタになりそう」と感じたり、社会と接するときに知っていることが優位に働くものと定義してみます。

後者の「好奇心をくすぐられる」は、ある種の自己満足的な要素です。言い換えると、知ることで社会的な意味を得られなくても、自分自身が知ることをやめられないものを指します。

私が非属人系の動画台本を作成するときは、常に「視聴者にとってこの情報の重要性と面白さはどのくらいだろう」と考えて文章を紡いできました。そして、そのどちらにも影響しない情報は限りなくゼロに近づけ、台本を絞り上げるのです。

視聴前の予想とのギャップを作る

たとえば『黄金時代を生きた海賊の意外すぎる暮らし』という動画に、以下のような導入があったとします。

およそ15世紀から18世紀、大航海時代には悪魔とも英雄とも言われたカリスマ海賊が多くいた。

ここで漫画好きの視聴者ならワンピースを、映画好きの視聴者はパイレーツ・オブ・カリビアンを想像するかもしれません。視聴者はルフィーとその仲間を想像したり、ジャック・スパロウを思い浮かべたりしつつ、動画を流し観るはずです。

そこへ以下のように続けてギャップを作ることで、視聴者の関心の綱をグイグイと引っ張るのです。

意外にも、彼らは小学生のような規則正しい生活を送り、厳格なルールのもと海上での暮らしていた。そして石のような硬さのビスケットをかじり、革靴を煮込んで飢えをしのぐ、まさに命がけの日々を送っていたんだ。実は私たちが知っている「海賊」のイメージはトンチンカンで(続く)

こんな具合です。

ただ、ここまで言っておいてなんですが、ギャップを狙って入れても視聴者維持率に直接影響するとは思いません。

というのも「あえてギャップを入れる」という選択肢をとれる書き手は、基礎の筆力が備わっています。なのでストレートに台本を書いてもそこそこ面白く、十分離脱されにくい展開を作れるのです。

では、どこにギャップを入れる利点があるのか。

思うに、ギャップを入れると「コメントの増加」という形で効果があらわれます。言い換えると「動画を視聴してコメントをする」という視聴者側の体験を誘起する導線の1つになるのです。

「海賊の生活、会社員の俺と一緒じゃねえかwww」
「たしかルール違反すれば船長でも島流しらしいな」
「黒髭ティーチって某漫画より元ネタの方がヤバいね」

面白いコメントが増えれば、後に続いてやってくる視聴者が動画を観つつコメント欄も読むようになり、結果として “動画+コメントで楽しめるエンタメ性の高いコンテンツ” に昇華され、まわりまわって視聴者維持率が高くなる。私自身はそう考えています。

説明口調で情報を詰め込みすぎない

淡々と説明する動画を好む人もいますが、母数としては少ないと感じています。YouTubeを開いてゆっくり解説動画を観ている人、つまり暇つぶしのためのエンタメを探している大半の視聴者にとって、面白さの工夫もない説明口調の動画は退屈に映るようなのです。

YouTube上には同じテーマを同じ詳しさで、もっと面白く解説している動画が無数にあります。そして大抵の場合、退屈より面白い方がいいに決まっています。だからこそ(くどいですが)説明口調で埋まるような台本は避けた方がいいのです。

ただし問題があります。

思いのほか、自分の書いた台本は退屈か、それなりに面白いのか判断をくだすのが難しいのです。しかも、文章だと面白く感じた原稿が、動画化されて音声になったとたん退屈で仕方なくなることがよく起こります。

なので、あまりセンスのない私は以下の方法で面白さを見極めています。

書いた台本を合成音声に読ませて「退屈して途中で飽きる or 没頭して最後まで聴ける」を評価する。

これが一番手っ取り早く、かつ動画化した状態に近い形で、自らの台本の退屈さをジャッジできます。もし途中で飽きて読み上げを止めたなら、その停止点の手前すべてが改善対象です。

“退屈ポイント” がどの段階から蓄積され始めるのか、視聴者としての自分の心を観察してみてください。

情報を想像しやすい状態に置き換える

たとえば以下の台詞は、よく想像力を働かせる視聴者以外にはそのインパクトが伝わりません。

そこでは、ときに罰として溶けた鉛を耳に流し込まれることもあった。

上記の文言に加えて、つぎのような要素を加えて想像しやすい状態に加工しなければ、意味のない情報として流し聞きされてしまいます。

ちなみに鉛が溶け始める温度は327℃で、これは火種がない状態のガソリンすら発火してしまう超高温だ。オイルが染みたフライパンからモクモクと白煙が立ち上る温度、と言った方がイメージしやすいかもしれないな。その熱さが耳に入って(続く)

視聴者の実体験にリンクさせる表現を入れたり、五感に紐づけて想像してもらえる表現を交えたりすれば、より生々しく情報が相手へ伝達されます。

結果として視聴者の心を動かすキッカケが1つ増え、それがコメント数や視聴者維持率という形で反映されると踏んでいます。

意外性のある話題を一ヶ所に集中しない

1番目のポイントとして挙げたギャップの話に関連することとして、もう1つ。

どんな動画であっても、そのテーマの見どころとなる話題(情報)がいくつかあるはずです。それらの強い話題は、動画の一ヶ所に集めず分散させるよう意識しています。

ビジネス書籍ではよく「はじめに」から「第二章」あたりまで強い話題で引っ張り、中盤から後半にかけて退屈な内容となる……という現象を観測します。だんだん難しくコアな内容になったり、著者の息切れで情報が薄くなったりするのです。

書籍の場合、ギリギリ「これは勉強のためだし最後まで読むぞ」と慣性が働くのですが、YouTubeは暇つぶしとして消費することが多いですし、再生している動画画面の周辺に興味をそそる関連動画がぽんぽんとあらわられます。なので、いま見ている動画の視聴をやめて、違うコンテンツに鞍替えするハードルが低いのです。

だからこそ視聴者を逃がさないよう、全編を通して退屈させないように、書き手は台本の各所へ “視聴者を刺激する強い話題” をばらけさせるべきだと考えています。

たとえば『ダチョウの異常な身体能力』というテーマで台本を書くとするなら、以下の題材を一ヶ所に集めるのではなく、序盤から終盤にかけて適度に散らして配置し、ワクワクが途切れないよう工夫をするイメージです。

  1. 眼球は脳より大きく、3.5km先まで見えるそうだ。
  2. 骨がむき出しになる大怪我でも死なないし、手当てしなくても圧倒的な自己治癒力ですぐ完治するんだ。
  3. 運動神経も高く、走るスピードは最大で時速70kmとも言われている。もしもダチョウがフルマラソンを走ったら、軽く流しても40〜50分で完走できると試算されているぞ。

以上、ここまでのポイント5つが、ゆっくり台本を書くときに自身が意識している点です。

とはいえ受託仕事ではクライアントの意向優先

先ほどのポイントを守るため、動画のテーマによっては動画時間を普段より短くしたり、予定していた構成を執筆中にガラリと変えたりすることも多々あります。

ただ、こういった機動力のある動き方は「自分でチャンネルを持っている」か「クライアントが自由に任せてくれる」か、どちらかの場合でなければ難しいはずです。受託でゆっくり台本を書く場合には、本記事の内容はあくまで参考程度にとどめつつ、クライアントの方針に従うことを推奨します。

もし、それを窮屈に感じるようになったなら、そのときこそあなた自身がチャンネルを持つときです。成果が出ない時期は辛いですが、とても面白いですよ。