筆者は2018年7月にフリーランスライターとして独立し、2019年10月に合同会社ユートミーを設立して法人化しました。結論、法人化に後悔がないと言えばウソになります。

後述する通り、いろいろとメリットもあるのですが、固定費の増加にともない生じる「もっと稼がなければ」というプレッシャーが大きかったからです。個人事業主から法人成りを実践した目線から〝法人化前に知りたかったこと〟をまとめてみました。

この記事の執筆者

藤原 将

2018年からフリーランスライターとして主に法人メディアの記事制作に従事。

ランサーズ株式会社より「ランサーオブザイヤー2021」を受賞。大和出版『文章起業』など文章を題材にした著書複数。2022年からYouTube運営に注力。

率直な感想「別に法人化しなくても良かった」

もともと組織化して事業拡大をしたいとか、億単位の収益が出るから本格的に節税したいとか、そういった目的の法人化ではありませんでした。動機は曖昧かつ単純なものです。

  • 法人設立を経験したい
  • 不動産賃貸業を始めたい
  • 法人化して尻に火をつけたい

法人化をした当時、月の粗利益が80~100万円で推移しており、生活費を差し引いても多少の資金が残る状況でした。フリーランスライターは労働集約型のフロービジネスですから、自分の身体に無理が効くうちに資金を中古戸建運用に充てて、ストック収入の確保を目指そうと思い始めたのです。

不動産投資をやっている先輩経営者から「不動産をやるなら法人化しておきなさい」とアドバイスをいただいたこともあり、仕事の合間に『ひとりでできるもん』と『マネーフォワード会社設立』を活用し、合同会社を作ってみました。

結果、たしかに以下のようなメリットはありました。

  • 保険料が安くなった
  • 自宅を社宅化して節税できた
  • 事業投資の心理的抵抗が弱まった
  • 周囲の認識がフリーターから「社長」になった
  • 個人時代より「複数人で業務にあたります」と言いやすい
  • 決算期(個人で言う確定申告)の時期を繁忙期からずらせた

しかし、ちょうど不動産価格が高騰した時期と被ってしまったため、いったん中古戸建運用は諦めることに。そして、想像していたよりも「法人化すると面倒なこと」があると気づきました。箇条書きばかり続いて申し訳ありませんが、以下を負のポイントだと捉えています。

  • 固定費増加にプレッシャーを感じる
  • 役員報酬と可処分所得の調整が難しい
  • 住所を変えるたび変更登記が必要になる

それぞれ、実体験から来る印象を説明していきます。

固定費増加にプレッシャーを感じる

法人化にともない、個人事業主のころよりも固定費が増加しました。私の場合、これらの費用をランニングコストとして負担しています。

  • 税理士さんの顧問料
  • 法人口座の維持手数料
  • バーチャルオフィス契約料
  • 赤字決算でも生じる法人住民税
  • 確定申告周りのサービス契約料(筆者は『マネーフォワードクラウド』を愛用)

全部合わせても月額換算して10万円を超えはしませんが、法人化にともない単発の出費が大きなスケールになっているぶん、これらのランニングコストがボディブローのように効いてくるのです。変動費は「キツイときには抑えればいいや」と思えますが、固定費は「会社運営に必要だから負担しなければならない」という性質のものが多く、簡単にどうこう対処できません。

以上の理由から、個人事業主時代よりも稼がなければとプレッシャーを感じるようになりました。プレッシャーは必ずしも毒ではありませんが、それは精神状態が健全なときだけです。

役員報酬と可処分所得の調整が難しい

個人事業主のころは、売上から諸経費を引いた金額を自由に使えていました。一方、法人化して代表社員(株式会社なら代表取締役)になることで、毎月一定額の役員報酬を設定し、それが個人の毎月の収入となります。

ですから、個人事業主時代と同程度の収益をあげても、自身の可処分所得は「役員報酬から生活費・保険料等を差し引いた金額」のみです。私の場合、一期目の役員報酬は月17万円(諸々差し引かれると手元に来るのは12万円ちょっと)だったため、法人設立前と比べて使える個人資金は大幅に減りました。

筆者自身、事業投資以外にお金を使うタイプではないため深刻な問題にはなっていませんが、プライベートの出費が大きい場合には役員報酬と可処分所得の調整が難しいように思います。役員報酬を上げれば個人の可処分所得は増えますが、個人負担の税金が増える点でトレードオフですし、会社に資金を残せなくなるため考えどころです。

住所を変えるたび変更登記が必要になる

マイホームや実家など、住所が変わらない住居がある方には無縁かと思いますが、1~2年に一度は引越しをしていた筆者にとって「住所を変えるたび変更登記が必要になる」という点はかなり面倒でした。変更登記も『変更登記ひとりでできるもん』を使えば簡単にできるのですが、やり方など長期間覚えていないものですから、引越しのたびに一から調べて自ら変更登記の準備を進めていました。

専門家に任せても良いのですが、こういう「空き時間に自らやればコストが浮く」といった特性のものは、できる限り自ら対応したい事業者さんもいるのではないでしょうか。代表の住所が変わったとき、登記簿の変更申請を行う期限は「原則、変更から2週間以内」ですから、引越しと変更登記のご計画は慎重に。

20秒間「事業者のストック収入を作る一冊」の宣伝をさせてください。

「事業者としての経験」×「文章の専門家としての経験」をもとに、ビジネスに活きる個人出版の教科書を作りました。『Kindle Unlimited』の会員であれば費用ゼロで購読できます。ストック収入と集客経路の拡大を目指す方に届けば幸甚です。

新著『副業出版』配信!
著書、累計1.5万冊DLの経験を凝縮
本書は個人事業主(志望者含む)のためのKindle出版攻略本です。

電子出版、商業出版を経験した現役著者/ライターが、あなたのビジネスを加速させるため「Kindleの企画~執筆、表紙の依頼方法から販促まで網羅した一冊」を書きました。

〝企画脳の作り方〟や〝Kindleストアハック術〟を知りたい方はご一読ください。
画像クリックでAmazonへ移動します。

法人化をして「良かった」と思った瞬間

ここまで、あえてネガティブな側面ばかりを紹介しましたが、もちろん法人化して良かったと思う瞬間も多々あります。でなければ法人運営を諦めて、一期が終わった直後にさっさと個人成りしているところです。

実際に経験して分かった、冒頭に箇条書きで羅列したメリットを深掘りします。よく言われているメリットとも被りますが、素直に「良かった」と思えたものだけ取り上げますから、法人化を〝実際に〟経験した者の一意見としてご覧ください。

ここで説明する以外にも「有限責任にできる」「社会的信用が上がる」「退職金が損金になる」などのメリットもあるようですが、その有難さを実感する場面に出会えていないため本記事では割愛します。

保険料が安くなった

個人事業主時代は、国民健康保険と国民年金を合わせて最大70万円前後を払っていたように思います。

一方、法人化してからは役員報酬を抑えたこともあり、健康保険料と厚生年金保険料の合計額はフリー時代の半分以下となりました。その弊害として可処分所得は減ったわけですが、細く長く生き残りたい筆者としては保険料が安くなったことに大喜びです。

自宅を社宅化して節税できた

フリーランスライターは職場が自宅ですから、個人事業主時代も地代家賃(按分)として賃料を一部経費としていましたが、法人化すると賃料のうちより大きな割合を経費にできました。

仕事柄、多少は出張があるのですが、以前は賃料の安さを優先して立地を犠牲にしていました。しかし法人設立後は、賃貸物件を社宅として借りることで個人の金銭的負担を抑えられるため、立地も考慮した場所へ住めるように。(回数はあまり多くありませんが)出張がずいぶん楽になりました。

事業投資の心理的抵抗が弱まった

個人事業主時代は売上使途が自由ですから、事業投資をするとき「これに出費するなら美味しいランチに行ける」などと考えてしまい、毎度〝自分のお金が減る〟という感覚がありました。しかし、法人化をすれば役員報酬以上のお金が個人の手元に入ってくることはないため、どれだけ会社で利益をあげようと私生活には無関係です。

その結果「どうせ自分の財布は痛まないから」と考えられるようになり、以前よりも事業投資に抵抗がなくなりました。

周囲の認識がフリーターから「社長」になった

フリーランスライターを名乗っていた筆者の場合、残念なことに自分に対する周囲の認識は「フリーター」でした。事業者として生きていればフリーランスを名乗る人などゴロゴロ見かけますから、フリーターとフリーランス(と名乗る個人事業主)の違いは分かるものですが、まだ市民権を得ていないようです。

反面、法人化して肩書きがついたあとは「よ、社長」ともてはやされるようになり、認識の歪さを実感しました。フリーターと呼ばれることが嫌だったわけでもありませんが、やっと自分の仕事に理解を示してくれる姿勢が見られたことは嬉しいポイントです。

個人時代より「複数人で業務にあたります」と言いやすい

一人で仕事を請けたとき、一部業務を外注したいなら基本的に〝再委託の許可〟を得なければなりません。しかし、取引相手によっては再委託を好まないケースもあり、この場合はメイン業務から雑務のすべてを単独で行う必要があります。

一方、法人で仕事を請けると、「〇〇は私が、〇〇は社員(うちは妻)に任せる体制で行きます」といった提案が通りやすく、自分はメインの業務だけこなしつつ社員に雑務をお願いしやすくなります。

決算期(個人で言う確定申告)の時期を繁忙期からずらせた

フリーランスは、毎年1~12月までの売上・経費を計算し、翌年3月半ばに確定申告を行わなければなりません。毎月コツコツ計算していれば、余裕をもって確定申告の準備を進められますが、ついつい後回しにして3月ぎりぎりに急いで準備する方も多いのではないでしょうか。

多分に漏れず、私はいつも期限前ギリギリで処理を始めていました。しかし、12~3月は結構忙しく「確定申告が暇な時期にやって来れば良いのにな」と考えていたのです。法人化をすることで、この願いは叶いました。決算期を閑散シーズンに設定したので、焦ることなくゆっくり経費計上ができます。

まとめ

法人化は、多くの個人事業主にとって勇気のいる選択だと思います。だからこそ、いまの所得や今後の展望、事業拡大の計画を考慮しつつ慎重に判断することをおすすめします。

一度、法人設立を経験した私の基準では、つぎに当てはまるなら法人設立を前向きに考えても良いんじゃないかと思いました。

  • 過去に「法人なら取引するんだけど」と何度も言われてきた
  • 今後、年間の所得が1,000万円、2,000万円と増えていきそう
  • 外注・雇用を駆使して組織化を進め、事業をスケールさせたい

あとは、すでに法人化を経験したことのある人、あるいは専門家に「ちょっと聞きたいことあるんですけど……」と質問しても良いかと思います。

最後に「事業者のストック収入を作る一冊」の宣伝をさせてください。

「事業者としての経験」×「文章の専門家としての経験」をもとに、ビジネスに活きる個人出版の教科書を作りました。『Kindle Unlimited』の会員であれば費用ゼロで購読できます。ストック収入と集客経路の拡大を目指す方に届けば幸甚です。

新著『副業出版』配信!
著書、累計1.5万冊DLの経験を凝縮
本書は個人事業主(志望者含む)のためのKindle出版攻略本です。

電子出版、商業出版を経験した現役著者/ライターが、あなたのビジネスを加速させるため「Kindleの企画~執筆、表紙の依頼方法から販促まで網羅した一冊」を書きました。

〝企画脳の作り方〟や〝Kindleストアハック術〟を知りたい方はご一読ください。
画像クリックでAmazonへ移動します。